Luz de Tokyo

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2009年 05月 08日

牛丼屋ブルース




月末発売の雑誌もいよいよ大詰め。
そんなときに会社の移転が重なった。
原稿整理に追われてただでさえクソ忙しいのに、引っ越しの準備が追い打ちをかける。
いつものように終電に乗り、根津で降りる。
重い足を引きずって地下鉄の階段を上り、粉糠雨の交差点を渡る。
時計を見ると時刻はすでに零時半。
帰って晩メシを準備する気力は残っていない。

「いらっしゃいませぇー」
オレンジ色に輝く看板。
月に何度か利用する牛丼屋。
カウンターの店員のおっさんのカラ元気もいつもどおり。

「大盛りつゆだく、あとタマゴ」
注文もいつもどおり。
あ、ビールが飲みたい。
「ビールもお願いします」
…エプロン姿のおっさんの返事がない。
「ビール、聞こえた?」
「すいません、ビールは12時以降お出しできないんですよ」
思わず舌打ちすると、おっさんはくしゃくしゃの笑顔で言う。
「やっぱり一杯飲みたいですよね、すみません」

深夜の牛丼屋は戦い疲れた男たちがちらり、ほらりとやってくる。
無言でメシを食らうサラリーマン。
ネクタイをゆるめ、割り箸を割る。
仕事のいらだちを半分引きずったまま、もくもくとメシを飲み込む。
家に帰っても、誰も起きちゃいない。
家に帰っても、誰もいない。

人であふれかえったこの街。
見えない孤独を背負って日々を生きる男たち。
酒も飲まず、ただ明日のためにメシを食う男たち。
彼らが茶色い汁を吸ったコメを、薄い肉片を咀嚼する音だけが響く。
深夜の牛丼屋。
聞こえないけれど、確かに流れている。
ホコリだらけの、ヨレヨレのブルース。
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by luz_esperanza_777 | 2009-05-08 01:02 | Dias en Japon


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